今夜の下通りはいつもより人の通りが多い、これなら今夜は楽して稼げると思うがそう簡単に行かないところがこの仕事の辛いところでもある。

 時間は夜の9時を過ぎたが、果たして今夜はどんなお客が来るのか?と考える暇も無くそこに来たのは一人の男性。すぐにその手を出して
 「どうだろうか?」と言う・・・・こちらもその手を取り、
 「あなたは今どちらを選ぼうかと迷っていますね」と言えば、
 「そうだ、わかるんだ」と言うので、
 「わかりますよ」と言えば、
 「これからどうなるのかわかるか?」と言うので、こちらも真剣にしかも冷静になり、
 「あなたはいまの考えで行けば新しい方に動きますが、しかし後から考えが変わり失敗だと気付くでしょう、
しかしそれでは遅いので今回はもうひとつの考えに動いた方が良いと思います」と伝えると、
 「そうか・・・」と言い黙り込んだのである。こちらも何も話さずにいると、黙したまま見料を机に置いて立ち去って行ったのである。
 


 次に来た客は若い女性の二人連れ。
 「見て下さい」と一人が言う。二人の顔から恋愛の様子が見えたので、
 「恋愛関係の相談で良いですね」と言うと、
 「聞く前にわかるんですね」と言い、この二人の恋愛の相談になった。親友であるからして一緒に来たのであろう、普通は秘密にしときたい人が多いがそうでもないらしい。
 それぞれに答えを出すと、
 「ありがとうございました」と言い帰る後姿があったここ下通り・・・・



 次に来た客は女性のお客である。直ぐに手を出し無言・・・こう云う客には一方的に話して答えることにしている。
 「貴女は何でも自分がやってみないと気が済まない、また命令も嫌がりますので人との心労があるようですが」と言うと、
 「そうなんだね、やはりわかるんだね」と言い、初めて口を開いた。
 「これからどうだろうか?」と聞くので、まってましたとばかり、
 「これからは人間関係で気疲れしやすく、あと半年もすれば会社を辞めると思いますよ」と言うと、本人も
その計画があることを打ち明けた。

 こういう人は人の下で働くよりも自分で何かやる方が向いているのだと、思った街占であった・・・・・・・



 それからお客が途切れた深夜の1時前、街中は勤務を終えたホステスや接待帰りの飲み客にこれからも梯子酒をしに行く通行人で溢れているここ下通りの歓楽街。そんななか1人のお客の御到来である、見れば酔っているようで足元が少しふらついているのがわかる。そしてこちらの顔を見て、
 「わかるか?」と聞いて来る。そこで、
 「はい、わかりますよ当ててみましょうか?」と問えば、
 「当ててみろ」と言うので、
 「貴方は今夜はいつも飲みに行く店に出かけて行ったが好きな娘に最後は断られて少しヤケ酒のようですが」と言えば、ビックリしたのか顔から血の気が去った顔になり、そのアルコール臭い息を漏らして、
 「どうしてわかったんだ」と言う・・・・そこで、
 「もうここでは10年になりますのでなんでもわかりますよ」と返事をした。すると今迄荒っぽい口調が急に柔らかくなり、
 「今後その女とはどうなって行くのかわかるかい?」と言うので、
 「今後はまた明日貴方はその店に行きその娘に会いますが、せいぜい食事に行く位ですよ・・・・」と言えば、
 「・・・・・・」黙り込んでいたが、
 「そうか、ならまた来る」と言い、料金を置くとタクシーをとめて乗り込んで行く姿があった。

 それから10人程のお客を見てここ下通りは午前2時を過ぎこちらも帰る準備をし始めた今夜の街占・・・・・



 そして翌日は銀座通りに店をだした。ここは四つ角の隅に位置し四方八方から見えるのでそれなりに目立つと思い選んだ。ただ師匠に近づくといけないのでそれなりのところでロ-ソクに火を灯して準備をする。今夜の人通りは昨日と変わらずのようだ。

 勤務を終えたサラりーマンに買い物から帰る女性、子供の手を引いた母親、おしゃべりに夢中の学生などで通りは人が多い。こちらもお客を待つこと20分、そこにひとりの女性が、
 「こんばんは、見て下さい」と声を掛けた。
 「はい、何を見ましょうか家族のことで良いですか、病気のことですね」と返事をすれば、
 「そうですね、見る前にわかるのですね、ビックりです・・・・」と言う。

 「そうですよ」と返事をして、この人の顔を見てみると母親が今病気のようだ。すると、
 「今お母さんが身体が悪くて入院しているのですがなかなか良くなりません、これは何が原因か、もしわかるならと思い来て見ました」と言う・・・・親が病気であれば早く良くなって欲しいのは子供であれば誰でも考えるもの、そこで急いで卦を立ててみると観の泰を得た。これは今の苦境を現す卦、苦しみは大きいが先では泰にて回復の兆しありだ。ただ観は霊的に動きのある卦、つまり家の仏壇がその祀り方におかしな面があることを表しているので、
 「貴女の家では仏壇に他の人のものがあるようですが」と問えば、ビックリした顔になり、
 「そうです、どうしてわかったんですか、遠い○○の位牌があります」と答えた。これは良くない、そこで、
 「明日にでもその位牌を○○の○○にして行って下さい、それでお母さんの病状も少しずつ回復すると思いますので」と答えると、
 「そうなんですね、わかりました、ありがとうございました」と来た時の暗い顔が明るくなり喜んで帰って行ったのである。良くなればまた報告しに来るだろうと思ったここ銀座通りでの街占・・・・・・



 それから5人ほど見て次のお客である、時刻は深夜の12時を過ぎていた。着物を着ているさしずめ仕事帰りのホステスと見た。

 「何を見てもらえるの、何でもわかるの?」と言う、
 「はい、何でも見ますよ、店に来るお客のことですね」と言うと、
 「あら、わかるんだね、実はそうなんだけどね」とのことで、今一緒になろうかと言われているのだけど、どんなだろうかと思って・・・・・」と言う。そこで相手の生年月日を聞けば相手は10歳年上である。二人の相性を照らし合わせてみる・・・・そしてこの二人の相性を判断すればズレがあるのがわかる。
 交際も含めて相手と結婚する場合には相性は重要なポイントであるのだ、それがズレているのはきつい、今から20年も30年も一緒に暮らして行くのだから相性の見極めはとても重要である。そこで、
 「お二人の相性は少しズレがあります。従って私はお勧めしませんね」と答えた。すると、
 「そうなんだね、相性は大事とわたしも思う、鳥のインコでさえ相性が悪いと死んでしまうから・・・・」と言う。
 「そうですよ」と返事をすると、
 「これからだし、良く考えてみるわ」と言い、そのお客は料金を置くとタクシーに乗り込んで行く姿があった。



 次に来たお客はまたも和服美人、そして、
 「今後のお店のことを見て欲しいと」言う。
 「わかりました」と言い何にも聞かずに易に問えば、澤水困を表示され、これは店の売り上げ及び売り掛けに問題があることを示す、そこで、
 「金銭的なことで問題があり、今売り掛けと貸した金がとれずに難儀しているようですが・・・・」と言えば図星のようで、
 「ほんとにそうなんで困っているのよ・・・」と言う。このお客は人が良いのか強く言えないタイプのようで、こう云う人は多い。そこでとれると云うか返して貰える方法とお客繁盛の方法話せば、身を乗り出して聞いていて

 「そうなんだね、やってみるわ」と言うと、見料を支払い
 「また報告しに来るわ」と言うと帰って行った・・・・



 この仕事をするようになってやはりその後の相談者のことが気になるようになった。謂わば職業病的なものであるのか、そのなかでも特に印象に残る相談である。その日は10人ほどの相談後帰ろうかとしていた時に

 「見て貰えますか?」と声がして、返事をして振り向くとそこに1人の女性が立つ。見台を畳もうとしていたその手を止め、
 「はい、御相談ですね」と言えば、
 「わたしはどうなるのでしょう?」と言う。顔を見ればネオンの下でさえその暗さは歴然としている、これは酷い、この人の暗さは如何ばかりかと思い、
 「今貴女は人生の大きな決断を迫られていますね」と伝えてしまう・・・・つまりこの相談者は妊娠して今当に
産もうかどうしようかと考え込んでいるのだ、そんなこんなでカフェで過ごしていたが当方が目に留まったので思い切り相談となったのである。しかしこの暗さは普通ではないだろうと考え聞いて見れば、やはり
 「相手は○○であり今はどこにいるのかさえわからない・・・・」との返事が返ってきたのである。
それを聞いて
 「どうしてそうなるのか?」と考えたがそれもその人の考えであるからして仕方ないのか?とも思うが、

 「拝見しましたが駄目と出ましたよ」と言えば、まだ人通りはあり酔客の横を通る暗がりで黙して目には涙を溜めている。沈黙してそれから10分、その重い口を開き、
 「わかりました・・・」と言うと料金を払い帰る姿があった。そしておそらく本人は実行するのだろうと考えると何とも重い雰囲気に心はなって行った・・・・・



 次の日はまた手伝って貰って良いか?と連絡があり夕方店に行きそれから街占をすることにした。もう店でバイトをし始めて3年になろうかとしている23歳の秋・・・・・
 相変わらず店は満席状態になり座る席もなく帰ってしまうお客もいるのだ。最初は皿洗いだけで良い、との事であったが実際初めの一日だけで次の日からは何でもしないといけなくなった、予想はしていたのだが。
 そして夜の9時に店を出ていつもの場所で見台を据えて行う街占・・・今夜はどんなお客が来るのだろうか?

 そこに来た1人の男性お客、黙ってその手を差し出す、こちらもすぐにその手をとり拝見すれば生命線に勢いがない。これは病気を現している容、そこで
 「今健康面に良くない容がありますので病院に行き検査をうけた方が良いです、行きましたか?」と言えば、
 「そうなんだ、実は明日行くことになっている・・・・」と言う、こちらも
 「今年の運勢はあんまり良いとは思えませんので充分気をつけて行って下さい」と話すと、黙していたが見料を置くとネオンの灯りのなか帰って行った・・・・・



 次にきたお客は女性、
 「何がわかるの?何でも良いの?」と言う、
 「はい、何でもわかりますよ」と言えば、
 「今仕事がどうなのかわかる?」との事、そこで賽で占すれば出たのは天沢履である、これは一陰に五陽が集まる、また女子裸身の相、この人は男性に人気があるのだ、職場では人気があると云うことは見かけに限らず水商売をしていてそこに来るお客や同じ店で働く同僚との相談と見て聞いてみると、見事に的中した。相談の後、

 「どうしてわかったの?」と言う、
 「毎日行っていますから・・・」と言いこちらの話を聞いた後、
 「また来るね、良かった・・・」と言って帰って行ったここ下通りの歓楽街・・・・、



 次週にはその足はまた銀座通りにあった。いつ見ても人通りは絶えない。そんな中ひとりの女性がこちらを見ている姿が目に入る、どうしようか迷っているようだ・・・初めて見て貰う人は迷うことも多いのだがこの人はそれからすぐに見台の前に立ち、
 「見て下さい」と、か細い声で言う、そして、
 「何でも良いですか?」と言いその手を出す。こちらも、
 「何でも良いですよ」と言いその手を見れば、人間関係特に男性との苦悩が現れているのだ。そこで、
 「貴女は今男性とのことで悩んでいますね、これは良くありませんが、別れようとしていますね?」と言えば
 「・・・・・はい、昨日なんですが別れました・・・・」と返事が来た。

 交際して2ヶ月順調であったが或る日親が二人を目撃した為その時の印象が悪く別れなさいと言い始めそれ以来会うことも減り段々うまくいかなくなり昨日別れたと言う。まだ二十歳であることも影響したのか或いはこの人の気の弱さもあるのかとも思うが、顔色は暗い・・・・
 そこで見てみるとこの人の恋愛運は中途で障害が入り止る手相。そこで断易に問えば、出たのは大過である。そこで、
 「これは本心は別れ難いようですが相手は誠意の無い人のようですから、この侭別れた方が得策と思いますが」と伝えると、
 「そうなんですか?・・・・」と言い気持ちの動揺が見られる。そして暫く黙っていたが料金を払うと沈黙した侭銀座通りをあとにして行った・・・・



 次の日は店は予約のお客で既に満席になるらしく人手が足りずクラブの手伝いをすることになった。少し早目に行き仕込みの手伝いにビールを冷やしたり氷を運んだりしてそれは忙しいのだ。もう慣れてはいるが頼まれれば頑張るしかない。そこにひとりふたりと出勤してくるホステス。みんな姿が濃い色彩の服装で個性を引き出しどの人も色香漂う人ばかりである。開店営業時間はも少しあるのだがそんなことは構わずどんどんお客が席を埋めていきあっと言う間に満席である。ホステスも席に着くが足りない感じがしてバイトの子まで入れている。

 そして夜の9時になったが今夜は人手が足りないこともあって店を出たのは10時になっていた。それから銀座通りに店を構えて相談者の声を聞く・・・・そこにひとりのお客、
 「仕事のことだけどわかるかな?」と言う、こちらも、
 「大丈夫ですよ拝見します」と言い易に問うてみれば沢山を表出した、そこで、
 「これは今厳しいかたちですね、あんまり神経質になればこじれてしまうので受身で行くことですね、上司は神経質な面がありますね」と言えば、
 「そうなんだよわかるんだな」と言い神経質かと・・・・・呟き、
 「あんまり気にしないようにして行くことだな・・・・」と言うと見料を払い帰る姿があった・・・・・

街占物語1


大峯山修験