今日は読みたい本があったので夕方早めに街に行き書店の門を潜った。目の前に並んで
読者の顔を見ている本の数に今更ながら驚く。それから3冊の本をとりレジにて清算して持ち
帰ることにした。しかし今日は人手が何時ものように多いようなのでこの侭出店することにした。

 見台を組み立て通りの一角に出した。ここは何時もの銀座通りに比べると50m〜60m離れ
ているが通行量は多いので客付きは良い筈と読んだ。そして出して10分程で予想通り最初の
お客の御到来となった。

 「見てもらえますか?」
 「はい、何を見ましょうか?」と30代くらいの女性である。そして、
 「昨日ですが友人と仲違いしまして、今はわたしも反省しているのですがその言葉がなかな
か言えずどうしたらまた元のように仲良くできるか見て下さい」と言う。
  成程、大切な友人間でも食い違いや時には喧嘩することはある。しかし仲直りしてまた元の
よう親密な関係を築ければ人間的にも素晴らしいことではないだろうか。そこでその相談者を見
れば、悲しみの顔は現れてはいるが眉には良い気色を引きこれは友人からの引き立てをも意味
するので

 「貴女とその喧嘩した友人とのもうひとりの友人からの応援により助け舟が出て元のように
仲良くなれますので心配はいりません、ここ1週間位で解決しますよ」と伝えた。すると、
 「ほんとですか!わぁっ、良かった、ありがとうございました」とお礼を言い、見料を手渡すと
銀座通り方向に帰って行った。



 それから次に来たお客も女性今度は若い。
 「見て下さい」と言うが手を差し出すだけで何も話さないので当てて欲しいの心が見え見えで
ある。その手をとり、
 「貴女は少し勝気なとこがありそれが貴女の今後の運勢や対人関係に悪い影響を及ぼしますか
ら注意深く進まないといけないみたいです。同性間での付き合いも重要になって行くようですから」
と言うと、気に障ったのか、
 「えっ、そう」と言い、見料をポンと置き無言で帰って行った。

 いつも思うがこの仕事はサービス業ではないのだ・・・・・

 それから時計を見ればもう7時半近い、それで慌ててクラブへと急いで行った。何時もと違い
街占から先に始めたために今夜はいつもと逆になり少し慌てた。職場の人に迷惑が掛かるのを怖
れた為でもあった。

 そしてクラブの営業が始まるとそれはそれは忙しい、皿洗いだけで入店したのだがビール運びに付
き出しなどのおつまみにフルーツ盛り合わせ作りと何でもこなさないといけない。ホステスは多いが
男の従業員が足りないのだ。それなのにまた別に支店の話も近頃出ているのだ。

 今夜は閉店までの勤務になり少し疲れたがお客も皆帰り店長はじめ従業員と数人のホステス達と
食事に行くことになった。支度をしていると何やら騒がしい、見ればホステス達である。
近くの店に行くのにそこまでなのに一緒に行くと言う。その相手は自分?だと言われた。今日は変化
の多い一日となった。
 
時には自分を取り戻すことができる環境に身が置けることを感謝していかなければならない。
 
いつも独りで行動することばかりで他人を頼り生きていくことは好まぬので仕方ないが今違う環境
の中に身を置け、それが同じ職場のそれぞれ理解ある人達の中で僅か2〜3時間であっても過ごせ
ることに心底感謝しなければならない・・・・・

 
依頼・相談されることも多く、黒服、ホステス達の問題解決に僅かながらの知恵・力を振り絞り応じ
て行った日々が今更のように思い出される・・・・・



 何時ものようにバイトで出勤するとホステスがもう来ていた。早いなと思っていると、
 「相談したいことがあるので早く来たよ」と言う。仕込みをしながら聞いてみると昔からの親友が今
病気でそして近々入院になるとのこと。
 「それは大変ね」と返事をすれば、うかぬ顔がありありとしていてこれはまずいなと見てしまう自分
がいる。本人は病名を知っているのではないかと思われる。それも顔に出ているのを見た。
仕事前の
暗い話は影響があり嫌われるが仕込みを済ませてからみてみることにした。
 親友であれば言葉ひとつで人も揺れ動く。しかしどうなのか?やはり真剣にみて欲しいからこうして
早く店にきたのである。身近な人から依頼されるのは総理から依頼されるより名誉なことである・・・

 顔にはもう駄目なのが出ているが最後まで治療しなければわからないとも思えるが・・・・
 「少し長引きそうよ」と言えば、
 「良くなるの?」と喰い下がるので、
 「治療が長引くけど後はこの人の生命力次第と思う」と、自分でも生半可な答えになってしまった。

 それから夏が来た或る日そのホステスが休んでいることを知った。時期も重なる季節であった。



 
今夜は再び街占から先にした、その為少し早目にアパートを出た。歩いても5分とかからずに下通
りのど真ん中に出る。そして見台を組み立て幕を張り行灯にローソクを灯せば開店となるのだ。
 何時もより人通りが多いことを見越しての商売繁盛を目指す開店である。
 そしてそこに来たのは中年男性のお客。

 「何を占いましょうか?」と聞けば、
 「商売をしているけど今後のことと、従業員のことを見てくれないか?」と言う。
 「わかりました」と返事をして見てみれば商売は普通に良い状態に見える、しかし顔が暗い・・・・
 これは後での質問にある従業員のことと読んだので、
 「本当は従業員のことが一番聞きたいことなのでしょう」と言えば、
 「わかるのか?」と言う。顔にはこの相談者とその従業員の関係が表れていて困っている様子。

 そこで
 「これは何れ○○が周囲に知れて大きな○○を受けることになりますので、今の内に○○したが
得策です」と伝えたが、動揺が現れ暫く沈黙が続いた後、
 「そうなんだね、考えてみる・・・・」と言うと、急ぎ足で帰って行った相談者であった。
 それから6人ほどの相談をうけてBARへの出勤になった。

 毎日遅くまで忙しく終われば疲労感がドッと出る。今日は店長がいないこともあって最後まで残り
後片付けをしないといけない。そして終わった後に食事をするために下通りを歩いていたら果物店の
前で「今なの?」と声を掛けられて見てみれば知り合いのホステスがいて、「そうだよ」と返事をすれ
ば、「ごはん行かない?」と言う。こちらも丁度行くところであったし、少しタイミング良過ぎるかな、
と考えたが、拘らずに返事をして一緒に行くことにした。
 やはり客商売、流石に店の情報には詳しく、高級感溢れる店舗に案内された今夜の仕事帰りであ
った。
客商売ではあっても仕事上での悩みは色々あるのもホステス。相談もされそれなりに答えを出
した深夜のレストランであった。


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街占物語1

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