夜のバイトが終わり今から街占に行こうと着替えをしていると、ホステスからある処に行くので一緒に行って
くれないかと言われた。しかし街占は何時に終わるかわからないからと答えると、「構わないよ、終わるまで待つ
から」と言う。そうかと思うがあんまり気にもしないでクラブを出るとすぐに下通りのいつもの場所に着いていた。

 今夜も人通りは多く街には買い物客に帰宅中のサラリーマン、そして街中に飲みに来た男女に若者達など
いつもと変わらぬ歓楽街の風景が目の中に飛び込んで来る。そして場所を確保し商売道具の見台を急いで
組み立てるのである。

 今夜はどんなお客が来るのか?それは女性なのかそれとも男性なのか?深刻な悩みを抱える人が多くなっ
たここ下通りでの街占、

 ふと目の前にきれいな女性が立つ。
 「お願いできますか?」と言うと直ぐに目の前に右手を差し出す。
  細く女性らしいきれいな手をしていて神経の細やかさが見てとれる。しかし
顔を見れば意外と気の短さがわかり時には人と感情的になることもあるようだ。

 そこで、
 「貴女は自分の住みやすい環境を好む傾向がありますが人の干渉などは最も嫌うタイプのようで、今人と争
いやトラブルが起きているようですが」と伝えると

 「そうです!当たりです」と言い続けて
 「これからどうなりますか?」
と聞くので、更に手・顔を見れば辺地に気色を引いており印堂もきれいな色をしているので、
 「近くに住んでいる知り合いが助け船をだしてくれて問題は解決の方向に行くと出ていますが」と答えると、

 「ほんとに、まぁ嬉しい!」と言うと、見料を差し出し、
 「ありがとう、また来ますね」と言い歓楽街をあとにした。


  それから数人の客が来た後下通りの人の波を眺めているとその人波が段々と大きくなるのがわかる、
しかし相談者は誰も来ない、人が多すぎるのも困ったことになる場合がある。熊本一番の繁華街・歓楽街であ
れば相談しているところを誰かに見られると困る人も多いのである。

 そして時刻は夜の12時、本日5人目のお客・相談者がやって来た。時は昭和48年の11月・・・・・・・
 
 「みて下さい」と相談者の女性。
 「はい、何をみますか?当ててみましょうか?」とつい余計な事を言う。
  すると
 「えっ、みる前にわかるの?」と言うので、
 「はい、転職のことでしょう」と言えば、

 「えっ、どうしてわかったの?」と言うので、
 「はい、顔に書いてありますから」
と笑いながら応えれば、
 「凄いね」とビックリして、直ぐに今の仕事を辞めて次の仕事に移って良いか?との相談になった。


 そして深夜になり店のホステスの事を思い出したので気にしていたら下通りにやってきた。
 丁度お客もきれたので行動することにして銀座通りでタクシーを拾い二人で乗り込んだ。

 タクシーは銀座通りから世継橋交差点を走り南熊本の方向へと渡ったところで聞いてみた、
 「姉妹か実家に行くのでしょう?」と。すると図星だったようで、
 「そうよ、やはりわかるのね」と言う。おそらく家には病気がちの母がいるに違いないとも読んでいた。

 そしてタクシーが或る家の前で停車すると車を降りて門をくぐった。

 流石に深夜であるからして繁華街とは違い周囲には静けさが漂うが。それはまた今迄どこかで見たことの
ある不思議な記憶と云うか心のどこかに留められていた記憶のようになんとも言いがたいものを感じたので
ある。
 そして家に上がると客間に通される、しかし家はこんなに立派なところに住んでいてホステスをしているのが
不思議に思えた。
 「ちょっとここで待っていて」と言い出されたのはビールであった。
 そして5分ほど経過すると隣の部屋に呼ばれ行ってみると、そこにはべッドに休んでいる老婦人がいた、
その人が実母らしい、しかし身体が不自由であろう介助が必要のようだ。

 そして質問される、「病気はどうなんだろう、なにか憑き物でもありますか?」とのこと
である。
  しかし拝見したところ憑き物と思われるものの象はないのだが、御先祖のお墓が傾いてそれを直してくれと
の言葉が聞こえたのでそのことを伝えると、 非常にびっくりされ、先月その傾いているお墓を見てきたとの事。
早く修理しないといけないと思っていたところまさか今日聞いてほんとにびっくりしたと言われたのであった。



 今夜も街占前2時間にBARへと向かう。まだ開店前と云うのにもう客が来ている。今夜も店は安泰のようだ。
 すぐに客の注文をホステスが聞きカウンターへとオ−ダーする。この時代はビールの注文が多かったが中に
は焼酎の注文もそれなりにあった。特に熊本は球磨焼酎など有名産地があるためにそれなりに通の人達から
人気がある。しかし、今のようには消費されてはいなかった。
 そして午後8時ともなると店は満席になりスタッフは忙しくなる。そして今日はお客のリクエストがあり流しを
呼べとのことである。当時は街には夜ともなれば流しが営業していた。父親と娘のコンビに声を掛けるとすぐに
来てくれた。父親のアコーデオンそして娘の奏でるギターにその見事な歌唱力に皆魅了される今夜の社交場
 お客もいろんな歌をリクエストして愉しんでいる・・・5〜6曲歌い確か3000円位であったと記憶している。

 それから夜も10時を過ぎ店を後にして街占の場所まで歩いていく。
 今夜の最初のお客は男性、会社を辞めて今職探しと言う。
 拝見すれば需を選出、これは時期を待たねばならないが、ただジッとしていても始まらないのだ。そこで、
 「職安にも行き話しを聞いて自分の希望も話して行けば3ヶ月もすれば気に要る会社が見つかりますよ」と
答えると、
 「どんなしごとかわかりますか?」と言うので、
 「自動車関連の会社のようです、部品工場のようですが」と言えば、
 「今までも車の部品の会社でしたので安心しました」と言い、
 「ありがとうございました」とお礼を言うと下通りを帰って行った。







戻る