◆◆街占物語◆◆ 
           
   

  今夜は9時過ぎから店を出したここ銀座通り、いつもと変わらぬ風景が目の前に広がる。
すぐに見台を組み立てて行灯にロ−ソクを灯せば準備オ-ケーとなる。今夜はどんなお客が来るの
か?
 この商売では最初に来たお客が女性であれば縁起が良いとされ重宝されているのだ・・・・それか
ら20分
 「見て下さい」と声がかかる、見れば若い女性であり勤め人と見て、
 「どうぞ」と応えると右手を出すその手が少し震えていたのを見逃す訳も無く、
 「貴女は今怖い目に遭っていますね?」と聞けば、
 「わかるのですね」と言う、そこで、
 「貴女は今交際関係の争いに巻き込まれているようですが」と続けて言えば、言葉少なに経緯を
話し始めたのである。そこで今後の見通しを占断すれば山雷
頤之益を表出した。
 そこでこれはその場凌ぎの方法では解決しないので有力者を入れて臨んで行く事ですよと話せば
少し黙していたが、
 「わかりました・・・・」と言うので、こちらも
 「もしもの時には紹介しますからそのときにはまた来て下さい」と言うと、見料を置きその姿は人混
みの中に消えて行った・・・・・



  続いての相談者は男性、どうやら商売をしている人と見ていると、
 「運勢をみてくれ」と言う、そこで顔を見るとどうやら家庭も険悪と見て、
 「今貴方は商売が厳しい時ですがそれに加え奥さんともうまく行っていません」と断言すると、
 「そうですまったくその通りです、当りました」と言う・・・・・
 商売は良い時もあれば逆もあるので聞いた話では『3年も赤字が続けば方向転換を迫られると・・・
 そこで占断すると出たのは坎為水之否である
これは今後は方向を転換して止めて出直すことも
考えねばと思い、そのことを話せば、暫く考えていたが、
 「わかりました、また来ます」と言い見料を置くと急ぎ足で帰る姿があった・・・・・


 次のお客は勤め人のようだ、そして、
 「いつになったら良くなるのかみて下さい」とのこと。直ぐに占断すれば出たのは損之卦である。そこで
 「貴方は努力もしているがまだ時間が少しかかるのでそう、あと2年すれば目標が見えてきて叶うと思い
ますよ」と言えば、
 「まだ2年か・・・・」と言う。

 「2年はすぐ来るよその時にはまた見てあげますから・・・」と言えば、安心したのか笑顔を見せ見料を払
うと帰って行った・・・・・・


 次に来たお客は女性、服装から何かファッション関係の仕事をしていると読んだが、果たして・・・・
 「仕事の事を見て下さい」と言う。わかりましたと、返事をして拝見すれば、何か対人関係での苦悩が見
えたので、
 「今対人関係での困りごとが起きていて苦労しているようですが・・・」と言えば、
 「そうなんです、わかりますか?」と言う。そこで賽を振れば出たのは沢水困也、これは四難卦のひとつ
と言われている卦でありこの人の苦しみを現している。そこで現状の説明をすれば、
 「そうなんです、これからどうなりますか?」と聞いてくるので、
 「これは誰かに協力をしてもらいながら進めて行く方が早く解決すると思いますよ、いませんか?」と聞
けば
 「職場に仲の良い先輩がいます」と応えたので、
 「その人にも相談して行けば解決する筈ですよ」と伝えると、暫く考えていたが、
 「わかりました、またわかったら来ます」と言うと、そのお洒落な服装の女性は下通りの人混みの中に消
えて行く姿があった・・・・・


 今夜はまた店を手伝ってもらえないかと相談があったので短時間手伝うこととして早めに店に行くこ
とになった。初めは皿洗いだけで良いからであったが仕事をし始めるとそういう訳には行かず店の中の
あれこれとしなければならなかった・・・・店も人が足りずお客は毎日満席である。
 そして夜10時になり店を出ると下通りのいつもの場所に机を構えて占いの店を開店するのだ・・・・・
 今夜もここ下通りは賑わいを見せていてどんなお客がくるのだろうか?
 20分したその時ひとりの男性が立ち止まり手を差し出すのでその手をとり見てみると複雑な手相である
ことがわかる。
 「そこで今選ぶことで如何しようかと迷っていますよね?」と言えば「そうだ」と言う。そこで、これは、
初めに決めた方向に動くのがいいと思いますが」と言えば、
 「やはりそうか」と安心した顔になり、
 「ありがとうございました」と言うと、見料を払い帰る姿があった・・・・昭和47年のことである・・・



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