翌日は九州へと引き返しS県での日切りとなった。宿までの3時間車窓の景色に目をやれば
水辺、そして田園地帯がS市独特の自然の景観を引き立てながら私の目に飛びこませてくれる。
約3時間バスで過ごした後はようやく目的地のバス停に到着しバスでの旅も終わった。
そして重い荷物の商売道具を肩から下げて旅館に着いたのは夕方4時前であった。

 「御免下さい」と言えば、すぐに旅館の御主人が出て来て、「いらっしゃいませ」の挨拶をされると
 「お待ちしておりました○○さんですね、さあこちらにどうぞ、お部屋も静かな奥の一階を御用意いた
しております」と奥の部屋に案内された。そして重たいバッグを置くと宿帳に記入して出されたお茶を急
いで頂くと直ぐに外出した。
 印刷所に着くと頼んでいたチラシが出来ていて目の前に置いてあった。綺麗な出来上がりに満足した
あと料金を払い新聞への折込も頼んだ。すぐに従業員が届けてくれると言う。これで安心して宿に帰る
ことができる。
それから宿に帰り夕食をとったあと温泉に浸かり早めの床についたのであった。

 翌日天候は曇りであった。これなら悪くはないと読んだが果たしてこの地はどうか?良くなくても来
た以上は進むしかない。そして仲居さんから朝食の声がかかると食堂に行き地元の新鮮な海の幸を戴く
と直ぐに部屋に帰り相談者の御到来を待つことにした。
 10時になった時に仲居さんが
 「お客さんですよ」と中年女性を案内して来た。すぐに部屋に通して話を聞く。

 「今朝の広告を見てきました」と言われる。どうやら子供のことで相談したいらしい、
 「奥さんは子供のことが気になるのでしょうね」と言えば、
 「はい、そうですわかるもんですね」と言う。どこの親でもそうだが子供のことは何でも心配なもの
病気に仕事に金銭や交際関係と幾つになっても心配はあるのだが、この相談者の子供は仕事をやめてもう
1年との事。そこでその生まれ星を見てみるとどうも対人関係が良くなく苦手な面をもつようだ。
 そこで、
 「息子さんは人間関係が得意な方ではなく孤独です、その星には会社勤めで働くよりも技術者,職人等
の仕事が合うようですよ」と伝えると、
 「そうですか、手先は器用ですが」と言う。こちらの言ったことがもう既に的中しているも同然である。
 そして納得して、
 「ありがとうございました、帰ったら本人に話してみます、そのときに今度は本人を連れて来ます」と
言うと、部屋をあとにされた。最初のお客が女性であれば今日は繁盛だろうと既に読んでいた。

 そしてまた仲居さんが、「お客さんですよ」と依頼人を連れて来た。そして言うには「ロビーに今20人
位御客さんがきていますよ」と。そこで今回の旅占も間違いではなかったことに安心して急いで見ること
にした。
 2人目のお客は商売人と見たがやはりそうであった。自営業をしている50代の男性。最近商売が少し低迷
していて悩んでいると言う。顔にもそのことが現われて更に地閣の曇りも出現しているのも見逃さなかった。
そこで、
 「去年から低迷期に入りまして今は何をするにも味方が乏しい状況ですね」と言えば、
 「そうです、自分でもそんな気がしています。これからどう対応して行けば一番良いかわかりますか?」
と言うので、
 「店舗の排水関係が良くなくマイナスになっていて時々溢れた汚水が漏れ出しているのが見えますので
早急に修理工事をして下さい」と言ったものだからビックリされ、「そんな事までわかるのですか?」と
驚き、続いて、
 「お客さんを大事にして本年はイベント的なことをして気持ちを引き寄せ、また、来店した方には、
サービスポイントを始めたら繁盛していきますよ」と答えた。すると、
「そうですねそんなのが出ているのですね、わかりましたやってみます」と言い、少しは明るい顔になり 
 「今日は見ていただきありがとうございました」と言うと、多めの相談料金を置き帰って行かれた。

 それから先程から待っている人に来てもらい相談をうけ、そしてまた次の人を仲居さんが案内して
一日中とても忙しい日になったのである。

 翌日は朝食後にはもう30人位お客がきていた、仲居さんも流石にビックリして、
 「ほんとにお客さんが多いですね!」と言う。宿のお客は3組しかいなくて確かにそうである・・・・

 食事も早々にお客の求めに応じて男性の相談に乗る。
 「実は今度家を建てますのでその方角や時期が良いか見て貰いに来ました」と言う。拝見すれば、
既に顔には良い気色を引き今回のことが吉と出ている。そこで、方角をも見れば生気方位で安心である。
 「これは大丈夫ですよ、工事開始も6月なら問題もなく入居は11月の吉日を選定できますし」と言えば
 「そうですか、それでは安心できます。」と言うので11月の吉日を選んで相談を終えた。そしてまた
次の人が来て相談が始まる。

 「あたしはどこに行ってもあまり良く言われませんが先生にもそう見えますか?」と言う。拝見すれば
確かに星は強く寅年生まれであり性格は押しが強過ぎて人からは嫌われる。そこで、
 「貴女はその言葉に注意して出すぎず和を心掛けていけばよくなり運気も回復上昇しますよ」と言った
ものだから、
 「そうなんですか?初めて言われました、良くなりますか?」
 「そのようにすれば大丈夫ですよ、顔に出ていますから」と言えば、笑顔が見え、
 「今日はありがとうございました、またこちらに来られたらお願いします」と言い、
明るい顔で帰って行った。

  続いて来た人も女性の同じ寅年生まれ。顔には人とのトラブルが出ているのを見つける。座布団に座
ると、
 「貴女の顔には人とのトラブルが出ていますが」と言えば、なんと、
 「いいえ」と言う。流石に寅年生まれだけのことはある。わかっていても強情であるのは間違いがない。
これは厳しい相手だから納得させてやる為に核心を突いて、
 「貴女は今までもそうやって知らぬ存ぜぬを通してきて特に女性を泣かしてきているのがありありと顔
に出ているではないか」と強く言うと遂に黙り込んだが、最後には、
 「確かにそういうこともありました」との返事。最初からそう言えば良いものを誤魔化しの言葉を口か
ら吐いて私を騙せるとでも思ったか、或いは外せば金でもタカルつもりなのか?こう云うお客には断言する
事で無駄な時間を過ごすことはなく今回の相談を終わらせた。


 それから3日目も盛況の内に日切りを終えたので明日は熊本に帰る準備をするとともに、今回お世話に
なった地元の有力者にお礼の挨拶も済ませた。心は留守にした熊本に向かうのを止められなかった。

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