Y市には昼の12時位に着いた、今回初めて行う日切りの地であるが、思うところあって有力者に頼んでいた為、駅には迎え
の、それも若い子が来て案内してくれた。と云っても不案内な地であればチラシや新聞折込にも場所もわからずそれらに詳し
い人がいるのは大助かりである。

 ところでここY市は人口36万人、観光と農業が主な県であり、気候は温暖なこともあっていろんな物の生産県にもなっている。
 案内の子の紹介により今回の日限りの旅館が決まり女将さんの案内により松の間に通された。
 落ち着いた明るい部屋で一階ではあるが奥にあるため相談などには適している。女将さんに今回の日切りの件他を話して
いると案内の子も後押ししてくれた。
 そして荷物を置くとその足でチラシをとりに印刷所にも案内してもらいそれから新聞販売所までついてきてもらうことになった。

 やはり地元の人は詳しい、仕事の前段階がなんともスム−スに行き明日から楽に仕事も進めることができる。そして日切り
の前段階も終わり、案内の子にお礼を言えば、

 「明日知り合いにも宣伝しておきますね」との嬉しい言葉をもらい旅館に帰ると、

 「お夕食の準備ができてますよ」と、仲居さんの声掛けを聞き部屋に戻ると、
そこには地元の旨そうな山海の珍味やにぎり寿司が用意してあり、明日からの仕事に心を奮い立たせてくれるとともに宿の
格式をも感じたのであった。



 
翌朝朝食を摂っていると、仲居さんが「お客さんが来られていますよ」と言われるので、チラシの効果を感じ、朝食もそこそこ
に相談の準備をして部屋に入ってもらうことにしたが、なんと5組の相談者が来ていた。


 「実は家業が最近停滞気味で今後どうすれば元のように繁栄するでしょうか?
また、この停滞の原因がどこにあるか?見て下さい」と、最初の相談者である商店の男主人の質問である。そこで、

 「わかりました、みてみます」と言い断易でも占断すれば、商売を表す才財爻は休囚して勢いなし、救神子孫も日月の旺も
ない、これはかなり窮地にいる状況であり、顔にも地閣の曇りが出て悲痛さを現す。しかし辺地に助けがある気色を引いて
いるので、距離のある地点を中心に今後は経営を考えれば少しずつ旨く行くのではないか、
と見てそれらを伝え、またやはり同業関係もありますから今までのお客を大事にしていかないといけませんよ、と伝えると、

 「そうかもしれません、確かに今までのお客さんや取引のあった方々に対しては乱雑と言うか丁寧な対応ではなかったかも
知れません、言われたように今日から改めて行きます、これで見通しが立った気がします、ありがとうございました」と言われ、
相談料金を差し出されると帰って行かれた。


 そして直ぐに次の相談者に入ってもらい、

 「どうぞお座りください」と言い顔を見れば異性の問題である相が出ているので、

 「女性の件ですね」と何も聞かずに言うと、
 「えっ、わかりますか?」と言われるので、
 「はい、わからなければこの仕事はできませんよ」と言ったものだから、安心されたのか色々と細かい相談に乗ることになった。


 
話を聞けば交際してもう五年になると云う、しかし一度結婚の話はでたがお互いの両親が反対で、それから話は進展もせず
五年が経過したとのこと、そこで

 「少し長くなりましたね、時間が経過し過ぎて駄目になることもありますので、早く話を進めた方が良いと思いますが」と答える。
 「また今年は結論を出すべき年でもありますので、お互い決断が必要ですよ」と言うと、
 「そうですね、それはわかっていますので今夜また彼女と話してみます」と言い、相談が終わると帰って行った。

 恐らく彼女と話しても埒が明かずまたどうどう巡りになるであろう姿が目に焼きつくここY市の日切の旅である。



 続いて仲居さんが案内して来たのは芸能人みたいな人である。服のセンスから物腰の気品溢れる女性であるが、果たしてその
悩み・相談事は?

 「こんにちは私はいままで本当に心底当たる占いと云うものでみて貰ったことがありません、ですから今日は本当に当たる占い
があると聞いたのでお伺いしてみました」と言う。

 「そうなんですねと応え、なにを見て欲しいかを聞けば、今後の仕事の事だと言う」、やはり今は芸能関係であり、なんとかして
今よりも今以上に注目されたい」との事。

 そこでお顔も拝見すればそんなに悪い運気ではなく、雲も来月には晴れて明るい見通しが来る形が出ている、これは仕事を選ば
ず思い切り進んで行くことが引き立てを受けることになるのでそこを強く勧めたのである。

 それを聞いて数段明るい顔になり
「がんばります」との嬉しい返事をされた。

 それからお共の人共々お礼を言い足早に帰ったのである・・・・・・



 「お客さんですよ」との声と共に次の相談者が来る。見てすぐわかる異色の存在である。
 「どうぞ」と座布団を促し座ると同時に、
 「俺はいつから良くなるだろうか?」との質問。見れば微かに手が震えていて○○の作用であろう。これは仕事などする気はなく
まぁ楽に世の中を渡ろうとする相である。

 そこで
 「良くなるも悪くなるも基本は自分の決断が先決ですので、出来るところから始めて行くべきですね、」と答えた。すると
 「それはわかっているが」と言う。

 しかしもうそれも近々無理になることが見え、
 「それから、体のほうが極限に至るように視得ますので一度病院での検査をうけて下さい」とも進言したのである。それを聞いて
納得した心が視得た。

 本来自分の運命は気になる人であるからこうして今日きたのであるから誰であろうとその本心を捉えればこちらに気持ちは流れる
のである。

 それからここY市も盛況の内に最終日を迎えた。


 次のS市に向かう準備、チラシや予定の場所旅館の確保などにまた忙しい日中を送ることになった。そして旅館の女将さんや、
地元の有力者へのお礼の挨拶を済ませるといつものようにその足先はバス停に向かっていた。

 それから電車とバスを乗り継ぐこと3時間あまりでS市の駅に着いた。今回は市の施設を借りての日切となり期待はするが実際蓋
を開けてみないことにはどれくらいの相談者が来るのかもわからない。市の施設に着くと担当者の若い男性が対応してくれた、
お世話になりますと挨拶をしてこれより5日間の営業の準備をする。

 そしてその足で泊まる旅館を決め印刷所に頼んでいたチラシをとりに行く。今回は二色刷りにしたので今ひとつかなとの想いが
浮かんだが、余り小さいことに拘っても仕方ないので割り切りで臨んでいくことにした。

 そして新聞販売店を聞いて折込の依頼をしたのである。印刷所から運んで貰うので楽である。
あとは旅館に帰り夕食までの時間をコーヒーで過ごした。

 ここS市は観光が主な産業であり地元の人はその殆どの人が観光産業関係で働いているようだ。
 お土産の品物はどれも一工夫が感じられ独特の雰囲気情緒が醸し出されている。そして夕食の声が掛かり食堂にて地元の味を
堪能したあとは温泉で旅の疲れを取った。

 明日は朝が早いので夜8時には床に就いていた。

 次の日旅館を出たのは朝9時であった、少し重い仕事道具の筮竹・天眼鏡・占断関連の本、それに暇なときに読む歴史書などで
バッグの紐が肩に食い込む。そして市の会館に着くと受付で手続きを済ませて鳳凰の間に入る。

 この部屋は8畳ほどの広さがあり部屋は明るくお茶などの設備もあり旅館よりは劣るが料金と云うか使用料金が安いのだ。
そして準備を調えて相談者を待つ、しかし旅館のように案内してくれる人もいないつまり何でも独りでしなければならない、
昔からそうかも知れない、いつも独りで行動しているのだ、人の干渉を嫌う面があるらしい。

 そして入り口で人の声がするので開けてみれば相談者が来ていた。しかも女性の相談者である。年配ではあるが最初の相談者が
女性なら吉になる・・・・・
 すぐに入ってもらい話しを聞く。

 「私は今日死にますか?」と言う、いきなりな相談ではあるが、顔に死相も出てはいない、
しかしそれよりもこの相談者の心の奥底をみることがこれから始まるのであった・・・・・

翌日の日切りの旅

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