龍神堂本部 今日は少し早めに街に出掛けて行った。いつもより少し早いせいかまだいつもの商店は営業中である。仕方なく閉店している店の横に出店した。 日曜日ということもあってここ下通りの商店街はどこもかしこも大賑わいである。デパ-トの紙袋を下げた買い物帰りのお客、家族連れであろう子供が嬉しそうに親と手を繋いで歩いている、買って貰ったのはオモチャであろうか。そして若い人特有の派手な格好をしたカップル達も皆楽しそうに話しながら歩いている商店街。そんな中に混じって少し酔った足取りで隣の人とぶつかりそうになる男性、楽しい酒であればいいのだが・・・ それから間もなく「見て下さい」と女性の声、若い相談者である。いつもの如く 「はい、何をみましょうか?」と返事をすると、 「実は今交際している彼が嘘ばかりついて私を困らせるのです、今日来たのはどうして嘘ばかりつくのか、その理由を知りたくて来ました、わかりますか?」との事。 「理由が何なのか見ればいい訳ですね、わかりました」と返事をする。この手の相談は本人の思い込みや勘違いなども多くあり、見るのは簡単でも説得が難しいことも多い、そこで見てみると、どうもその男は賭け事が好きなようで金に関する災いの多い生まれと出たので、 「これはお金が絡んでいまして本人には借金があり貴女にはそれがバレないようにするために嘘をつくようです」 「えっ、本当ですか?」 「はいそうです」と答えるとともに本人に聞きただしてみたらどうかとも伝えた。すると、 「わかりました、一度聞いてみてそれからまたどうするかお聞きしに来ます」と言い、見料を置くと足早に立ち去って行った。 嘘は一度つくと次から次につかないといけなくなる、少しの嘘や思わぬ行動が原因で壊れる男女の仲。 対人関係しかり。 続いて来た相談者は男性の二人連れである。いきなり黙って手を差し出す、こちらもその手をとり運勢を みてみると、障害線が出ているではないか、そこで 「仕事と云うか商売が暗礁に乗り上げていますね」と言うと 「ほっ、良くわかりましたね」と言うので、 「ほら、この線に出ていますよ」と言い示してあげると、もう一人の男もみてくれと言うので見てみると、 こっちの男にも出ているではないか、 「一度原点に返り見直すようになりますね」と言うしかなかった。おそらくこの儘では閉店することになるであろうが最後迄進んでいくと見た。 続いてきたのは中年男性、歳の頃50位か、 「見てくれませんか?」との事で顔を見れば不幸の相がでているのがわかる。そこで何も聞かず、 「顔色が良くなく注意とでていますが?」と答えると、 「えっ、どうしてですか?」と言い、身を乗り出すので、 「あなたには人から怨みを買う相が出ていて近々良くない事が起きそうですが」と言えば、何か思い出したようで、 「それはもしかしたら不正の件かもしれませんね、今不正を追求している事があります」と言われる。 「充分注意して処して下さい、貴方の体力と感の良さでしたら避けれるでしょう」と言うと少しは笑顔になり、 「いつも注意はしていますが今日は指摘されましたのでまた気を引き締めて行きますよ」と言われ、見料を置くと、急ぎ足で下通りの人込のなかに見えなくなった。 時計を見るといつしか深夜の1時を過ぎておりもう今夜は帰宅の途に就いた。 今夜は9時前には下通りに着いた。しかし余りにもお客が付くので師匠は良い顔をしていないのがわかる。自分を含め他の者の嫉みの心を読んでしまう。出る杭は打たれるの例え通りであるが、そんなことで挫けるほどヤワナ心は持ち合わせていない。また相談者の方も場所を移動したとしても、その移動した場所にはすぐに訪れるものである。それだけ他の者は暇なのである。それがこの道の実力の世界となる。ただ、師匠や他の者とトラブルになることは避けるため、この場所も他の場所へと移すことを考えていた。しかし今夜は既に6人のお客が訪れているのだ。そんなことまで考えながら街にて人の相談に乗っているともう深夜の1時であり帰宅の途に就いた・・・・・ 次の日は夜8時過ぎには銀座通りに着いた。そして開店の準備をしていると 「見て下さい」と相談者。急いで行灯に火を灯し相談者の悩みに応じる昭和44年の秋風香る下通りの歓楽街 今夜の最初の相談者は若い女性である。徐に手をとり手相での相談となる。 細くしなやかな女性らしい手の形の意味するものは、少し神経質な面はあるが感受性はそれなりに強くしかも負けず嫌いな面をも併せ持つ。そこで、 「貴女は少し神経質な面はありますが良く気が付く人で友人も多くいますね」と言うと、 「はいそうだと思います」と言う。そこで今一番聞きたいことは、 「今後彼氏ができるかどうか知りたいのでしょう」と言えば、 「そうですわかりますか?」とのことで、顔を見れば魚尾には変化なしの相、 そこで一サイすれば漸を表出、これは何れ彼氏となる人が出現することを示しているので、 「来年の春先4月には機会が訪れ知り合うことになります、しかも5歳程上で 確かりした人のようです」と伝えれば、 「わぁそうなんですか、良かったぁ、その時はまた来ますね」と言うと見料を 机に置き新市街方向へと帰って行った。 それから夜10時までに20人程の相談者が来てバタバタしていたら店舗を営ん でいる女社長さんから「これ残り物ですけど」と言われて実においしそうなパンを戴いた。 とても有難くお礼を述べると「お疲れ様」と言われ帰って行かれた。出店お断り の張り紙までする経営者もいる世の中と云うのに本当に感謝しかない。後日談ではあるがこの店舗はその後とても大きく成長して支店も何軒も増えこちらも歳もとり、その店舗の前に立つと当時のことが大きく蘇って来た・・・・・・ それから今夜の街占、帰宅の途に就いたのは深夜の2時を廻っていた。 翌日は夜7時からの出店になった。お客は来ないが人の往来は激しいここ下通り商店街。 今夜も悩める人々の相談にのるべくここ銀座通のレコード店舗の片隅に出した。そして、 見台を出して幕を張り行灯にローソクを灯せば準備万端整う。 それから相談者を待つこと5分一人の若い男性が見台の前に立つ。 「あのぅ見てもらっていいですか?」とのことで、 「はい、どうぞ」と言いその人の手を軽くとり手相を拝見すると、全体的に弱さが目立ち、これは今ひとつ決断できずに諸事迷うかたちである。そこで、 「あなたは今ひとつここぞと云う時に決断が出来ないことや迷いが増えてチャンスを逃し行く傾向がありますよ、どうですか?」と言えば、 「そうですね、いつもそれで後悔することが多いです」と言う。そこで、 「これからは迷ったらいつでも見てあげますから来て下さい。そうして行けば先ではきちん決断していけることになるように出ていますから・・・・」と伝えたら、 「そうですね、今度からそうします、ありがとうございました」と言うと、見台に見料を置き新天街方向に歩いて行った。 次のお客は中年婦人。 「見てもらえるかしら?」と言うと、続いて「あらぁ若い易者さんね」と言う。つい 「はい今年19歳になります」と言えば二度ビックリした顔をした今夜のお客。若いから帰るかと思いきや、 「夫のことだけどわかりますか?」と言うので、 「はい大丈夫ですよ」と答え、そして「御主人のお金の遣い方を聞きたいのでしょう」と言えば 「そうなのよ、わかるんだね!」と言われ拝見すれば、どうやら女がいてそちらの方向にお金が流れていくかたちが見えたので、 「ご主人は金使いが荒いようで、付き合いや女性にも流れて行くようです」と答えた。すると 薄々は知ってる感もあるのかそんなには怒りもしない。これはこの奥さんがご主人に惚れているからであろう。そこで 「今後はお金の管理を少しずつして行くことです」と言えば、 「ほんとね、そうするわ、今日は見て貰ってありがとう」と言い見料を置くと急ぎ足で帰って行った。 その後は50人程のお客を見て店終いしたのは午前2時半であった。 back |