龍神堂本部


また今日も街占で生活する身、他のことには気が向かず思えば5歳の時の霊体験が
引き金になった。

 それからいつものようにここ下通りに店を出す、と言っても通路やビルや閉店した
店舗の谷間や前の処に出すために商店からは心良く思われない
のである。家賃や負担金も払うわけでもなく商売をするので、店舗の壁やシャッタ-に
張り紙をされるのだ。 「出店お断わり」 と ・・・・・・
そんなときには仕方無しに違う場所へと移動する。なんとも便利な商売なのだ・・・・・

 さて今夜も日銭商売の身にとっては稼がなくてはならず相談者がひとりでも多く来る
ためにはついつい人通りの多い歓楽街・飲み屋街の中央に出すことになる。しかし冬
は風除けもなく何枚も着込んで仕事をする。そのようなときに人の温かさに出会うと
本当に有難味を覚える。

その時
 「見てくれ!」と男の声が廻りの人混みの中の幾つものざわめきの中を断ち切って
手を差し出す。見れば男性のお客である、しかも背が高い。
すぐにその差し出した手をとり拝見してみると、運命線上に出る障害の島、これは今
仕事や商売が低迷して何がしかの障害が取り巻いて
いることを表す。そこで、

 「今仕事の上で障害が出ていて近々窮地に立たされそうですが」と答えると、
 「おお、わかるのか」と返事をされたので、
 「わかりますよ」と答えたのである。こちらもまだやっと先月20歳になったばかりな
のでこんな若造にわかるのか?とでも思ったのであろう、
そのあと
 「これからどうなるかわかるか?」と聞くので、

 「全部で千円になります」と言うと、意外にも即千円を見台に置くので、
 「はい、この侭では良くありませんのでどなたかに救助を求めるか (多分親に頼むと
見たが) しないと障害が消えません、しかもこの障害の
件はお金も絡んでいますから」と答えたら

 「そうだろうな」と言い、急いでいるようで、また来る,と言うと足早に雑踏の中に消え
て行った。


続いて来たのは若い男性、黙って手を出す。見てみると生命線が短いのがわかる。
だからと言って短命とはならないのは常識。そこで、
 「今仕事のことで悩んでいて辞めようかと考えていますでしょう?」と聞けば、

 「はい、わかりますか?」と言う。そしてどうすればいいかと聞くので、顔を見ると目上
に逆らう相が出ているので、
 「上の人や先輩の人の意見に耳を傾けることが大事ですよ、そうして我慢していけば
1年もしないうちに良いことが起きますから」と答えたら的中したらしく、
 「なんでもわかるもんだな」と言い、見料を手渡すと帰って行った。



 それから何人かの相談をうけて時間は午前0時半になろうとしていたとき、

 「こんばんわ、まだ出していたの?」と知り合いの女性。街中のクラブに勤務していて
閉店の0時を過ぎて今帰るところだと言う。

「今ですか?お疲れ様」と言えば、
 「良かったらこれ食べてね」と言い紙袋を渡される、こちらの心を見抜いているのか?
えっと思ったが、お礼を言って受け取ると、
 
「頑張ってね」と言って,下通りのタクシ−を拾って帰って行った。

 この仕事は食事も侭ならぬ事も多くましてやトイレに行くにも更に儘ならぬ場合があり、
空腹時の差し入れほど有難いものはない。そして
その袋を開いて見ると、リンゴや寿司まで入っている、しかもそのリンゴは1個千円で売っ
ている物で普段は50円のリンゴしか食べた事がない者には超高級品だし寿司にしても見て
すぐわかる高級店の物であった。


そんなことがあったあと、もう帰るつもりで見台を片付けていたら、「もう終わりですか?」
と声がしたので振り返るとそこには女性のお客、

 「大丈夫ですよ」と言うと、
 「相性を見て下さい」とのこと、そこで生年月日時間を聞いて調べてみると、あんまり良く
ない相性である。困ったと思ったが、

 「あんまりいい相性ではありませんね、先細りになって行くかもと思われます」と答えたら、
意外にもそんなに深くは考えていないと言うのでそうなんだと思い、

「それでは気をつけて」と答えるしかなかった。



 それから今夜はほんとに帰るつもりで片付けをし始めたところに最後のお客、見れば男の
二人連れが立つ。開口一番、
 「見て頂けますか?」ときれいな東京弁である。その時見たことのある人であるのに気付
いた。
 そして、
 「わかりました、何を見れば良いですか?お仕事のことですね?」と聞けば、何と、
 「今度レコ−ドを出しますので売れるか、その売れ行きがどんなものか見て下さい」との
質問である。そこで、
 「はい、わかりました」と言いサイ占にて見れば、雷火豊を表出した。これは勢いがあり
かなり強力さが覗える容。そこで、
 「心配いりませんよ発売から2ヶ月もすればベスト10に入ります、強力です」と答えたもの
だから、
 「そうなんですね、安心していいですね!」と連れのマネ−ジャ−と思しき人と笑みが溢
れたのである。歌手である以上新曲の売れ行きは心底気になる・・・・
 そして見料を過分に置いて帰って行った。その時思ったのは熊本にはレコード店への挨拶
廻りなのだろう、やはり歌手と云えども営業は大事なのがわかる。

 その後街角から或いはテレビでもその歌手の姿を見、またこの曲が流れない日はなか
ったのを覚えている・・・・・・


 次の日もここ熊本下通りに占いの店を出した。日にちを重ねる毎に見て下さい、と云う
お客(依頼者)も増え近頃は待つ人が目立つ。あまり待たせるのも気の毒で即断を心掛け
るのであるが、ついつい話も長引く。人生の岐路に立つのであれば当然でもある。

 今夜の最初の依頼人は女性、何か訳ありそうで顔には家庭争議が出ているのを見つけ
てしまう。
 「見て下さい、お願いします」と言い徐に手を差し出す。 細くきれいな手をしている、しかし
このような手の相は家庭にはあまり向かないことが多い。常に心は何かを夢見る・常に男性
から愛されてると感じていられる環境を好み、日本人男性には少々厳しいのではと思う。
 そこで、「貴女は他に意中の男性とのことで今悩んでいますね」と言えば、あっさりと、
 「そうです、わかりますか?」と・・・・・やはりそうであった。そこで、
 「既婚者だからいけないとは思いますが、貴女は何でも自由な面を持っていますから」と
言えば、
 「私は束縛は絶対に嫌です」とも言う。つまりは夫から毎日愛の言葉を聞いていたいと云う
タイプで日本人男性には酷と思える。そのとき他にもお客が並んだので、
 「今後はその男性のところに走り、気が付いたころには離婚へと発展します」と占断した。
 すると見料を机に置くと、「若くても当たるのね!」と言い残し下通りに見えなくなって行った。


 続いて来たお客も女性の相談者。訳ありと見て顔の美しさの外に男の色白の顔が見えた。
 そこで「貴女は今男性とのお付き合いで困っていて友人にも相談していますね」と言えば
こちらの顔をマジマジと見て「わかりますか?」と言う。
 「もうここには7年出していますから何でもわかりますよ」と答えると、
 「実は友人にも相談していますがなかなか解決しません」とのこと。霊視の結果はすぐに出る。
 この女性はトラブルに巻き込まれて困っているのだ、今で言うスト−カー的な男であるのだ。
この手の男は説得しても無駄なことははっきりしている。縁あって相談されたのなら解決してあ
げねば相談者としては失格である。
 そこで相手のことを詳しく聞いてそれなりの対策・方法を示した為相談者も安心した顔になり
元の綺麗な笑顔に戻った今夜の街占であった。


 翌日もここ銀座通りに出した。水曜日と云うこともあり今夜は人通りが少ないように思えた。
少なければ相談者も少ないのではと思うがしかし街中に足を運ぶ人はそれなりにいるのだ。
それは勿論呑み助であるからして酒が入っているひとが殆どである。時間はまだ夜の7時前
になる。そこに一人の女性が来る。
 「見ていただいていいかしら」ととても丁寧な言葉でその人の性格や占いをどれだけ信頼し
ているのかがわかると云うものだ。この相談者はおそらくこれから出勤するとみて水商売の
女性でありおそらく転居と見たら、
 「今度引っ越しますのでその方位が良いか、大丈夫か見て頂けますか?」とのこと。
 「はいわかりました」と答えたがやはり的中したので機嫌良く見ることができたが、今月中で
あれば吉ですので31日までが良いことを告げると
 「そうなのね、早く見て貰って良かったわ」と言い、
 「それじゃこれ」と言い、見台に料金を静かに置くと歓楽街方向に帰って行った・・・・・

 おそらく今の部屋が狭くなったのだろう、そこでパトロンにも言われて転居すると読んだ
歓楽街の街占であった。



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